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ブツブツ一人、自答自問しながらつぶやく彼にいまいち納得がいかず疑問が頭を回ったけれど、その仕草が可愛く思えて、プッと噴き出した。
「……なに?」
純さんのグレイの瞳が私を覗き込む。
「いえ。なんか、純さん可愛いなぁ、と思って。」
「は?……それ、痛いな……。」
純さんは心底嫌そうな顔をしたかと思うと、わたしの頭を抱えて彼の肩まで近付けた。
されるがままの私は、そのまま彼の体温をもっと感じたくて胸と背中に手を回し、ギュッと抱きつく。
純さんは、ほんと犬みたい、と笑ってから、
「絶対、顔あげないでね。」
前置きをして、口を開いた。
「千尋の会社のあの人。岡田さん、だっけ?」
「うん。そう。純さんと同じ歳。」
ーーそんな情報はいらないから。
純さんはそう苦笑いをして、続ける。
「なんか、羨ましかった。」
ーーまぁ、彼に限ったことではないけどね。
そう続いた純さんの言葉に、彼の言葉の中にある辛さが朧げに推測できた。
純さんは顔立ち整っていて、背も高く、自分の店を持っていて、 パティシエで手に職があって。
他人から羨ましい、と思われる部類に入るくらいの男だと思うのに、彼にとってそれはなんの意味もないのだろう。
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