第一章

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(でも、あまり明け透けに、姫様にどなたか殿方を見繕ってほしいとは、とても言えないわ。 そんなことをしたら、姫様を下に見られてしまうもの) 阿漕は落窪姫のことを、姉とも妹とも思い、本当に慕っておりましたので、どうにか姫に末永く幸せな、一途な恋をして欲しいと思いました。 もし、軽い女と見られて、一夜の遊びの恋の後、姫が打ち捨てられるようなことになったら、阿漕は自分の許せないでしょう。 (女の涙というやつは、こういう時にこそ、使わないと損よね) うふふと笑いを忍ばせて、阿漕は自分の局で、惟成の訪れを待つことにしたのです。 そうして程なくして、夫の惟成が姿を見せました。 ですが、本来なら明るく気の利く阿漕に、いつもの元気がありません。 最初は (もしかして、俺が来るのが遅かったから、すねて見せてるのかな? 可愛いやつだ) そんな風に満足げに阿漕の機嫌を取る惟成も、阿漕の目が潤んでいることに気づき、何か辛いことでもあったのかと、訝りはじめます。
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