第四章

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其の壱 右近の少将と落窪姫がめでたく結婚三日目の夜を過ごしたのち、阿漕が姫のお部屋に戻って参りました。 「失礼致します。 少将様、姫様。どうぞこちらを召し上がってくださいませ」 未だ夢見心地の少将は、気だるそうに上体を起こしながら、阿漕にまだ寝かせて欲しいと応じます。 「申し訳ありませんが、どうしてもこれは、今夜のうちに召し上がって頂きたいのです。 縁起物でございますから」 食い下がる阿漕の言葉に少将が眠い目をこすると、そこには綺麗な蒔絵の箱の蓋に、美しく盛り付けられた色とりどりの小さな餅がございました。 (なるほど。三日夜の餅か。 世話をする人もいない身の上と聞いていたが、きっと阿漕が色々算段してくれたのだろう) 阿漕の気配りに感心しながら、少将は身を起こし、餅に手を伸ばします。 「これを食べるのには、何か作法がいるのかい?」 この少将の質問に、阿漕は人知れず顔を明るくさせました。 「あらまあ、ご存じでは無いのですか?」
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