第四章

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「これが三日夜の餅だということは察しがついているけど。 私はまだ独身なんだから、作法までは知らないよ」 少将は、これが男女が契った後の、結婚の儀式であることを改めて思うと、少し照れくさい気がいたします。 (疑っていたわけでは無いけど……。 少将様は本当に独身でいらしたのね) 少将の答えと照れた様子に気を良くした阿漕は、袖で口元を隠しながら、三日夜の餅の作法を伝えました。 「これを噛み切らずに、三つ食べるんだね? 姫はいったいいくつ食べればいいんだい?」 「そうですね。それは姫様のお心のまま、好きな数だけと、そう聞いております」 右近の少将は、落窪姫にも餅を勧めますが、姫は供寝の余韻か、恥ずかしがって起きようと致しません。 それも仕方の無い事と少将は密かに思い、せめて自分だけはと作法通りに餅を三つ飲み込みました。 本当であれば、この後婿君を親族にお披露目するため、盛大な宴会が行われるのです。 けれど、お二人の結婚を知る者は、阿漕と惟成の二人だけでございました。 「ご結婚おめでとうございます」 阿漕は深々と頭を下げると、どんなに大勢の祝福にも負けないほど、強く二人の幸せを願ったのでございます。
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