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ようやくお勤めを済ませて、阿漕は自分の部屋に戻りました。
そこには濡れ鼠のようみすぼらしい惟成が、火鉢の前で肩を震わせて座っております。
(あらあら。なんてお姿なのかしら。でも、今日はこの雨の中少将様を連れてきてくれたことだし……)
阿漕は後ろからそっと惟成に近づくと、乾いた衣でその体を優しく包み込みました。
「もうっ。なんだってこんなにずぶ濡れなのよ。
それになんだか、変な臭いもするわ……。
傘はどうしたの? どんなけもの道を歩いて来たっていうの?」
話す素振りこそいつもの阿漕ですが、その手は優しく惟成の髪や体を拭っております。
「実は、ここに来る途中、えらい目にあったんだよ」
ここに来る道中の話を、惟成は阿漕に、面白おかしく話して聞かせました。
少将が落ちぶれた貴族だと言われた話や、牛の糞を麝香の香りに準えた話に、阿漕はハラハラしたりクスクス笑ったり。
二人の正式な結婚を見届けた今、やっと心からくつろげる気がしたのでしょう。
そのまま惟成の肩にもたれて、可愛らしい寝息を立て始めたのでございます。
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