860人が本棚に入れています
本棚に追加
結局、どちらのお部屋の夫婦もそのままぐっすりと眠り、気づいた頃には日がすっかり昇っておりました。
右近の少将は、落窪姫と正式な夫婦になりましたが、この中納言邸の婿と認められた訳ではありません。
ですから、このお邸から帰る所を、誰かに見咎められる訳にはいかないのです。
さらに、今日は石山詣に出かけた中納言家の人々が、お邸に帰ってくる日でございました。
阿漕は御手水や朝の膳の支度を大急ぎで済ませ、右近の少将も車の手配を致します。
けれど、時すでに遅し。
先程まで静かだったお邸に、けたたましい声が聞こえて参りました。
「あこぎー!
いったい何をぐずぐずしているんだいっ!
あーこーぎー!! 出迎えをしないつもりなのかいっ!?」
北の方の怒鳴り声に、阿漕は部屋を飛び出て、落窪姫はビクッと肩を竦ませます。
(ははーん。これが噂の、この家の女主人か……)
帰ることのできない右近の少将は、焦るよりも北の方への興味が増して、右眉をピクリとあげました。
「大丈夫ですよ。もし北の方に見つかって咎められるようなことがあっても、私がきっとお守りしますから」
最初のコメントを投稿しよう!