第四章

5/36
前へ
/378ページ
次へ
結局、どちらのお部屋の夫婦もそのままぐっすりと眠り、気づいた頃には日がすっかり昇っておりました。 右近の少将は、落窪姫と正式な夫婦になりましたが、この中納言邸の婿と認められた訳ではありません。 ですから、このお邸から帰る所を、誰かに見咎められる訳にはいかないのです。 さらに、今日は石山詣に出かけた中納言家の人々が、お邸に帰ってくる日でございました。 阿漕は御手水や朝の膳の支度を大急ぎで済ませ、右近の少将も車の手配を致します。 けれど、時すでに遅し。 先程まで静かだったお邸に、けたたましい声が聞こえて参りました。 「あこぎー!  いったい何をぐずぐずしているんだいっ! あーこーぎー!! 出迎えをしないつもりなのかいっ!?」 北の方の怒鳴り声に、阿漕は部屋を飛び出て、落窪姫はビクッと肩を竦ませます。 (ははーん。これが噂の、この家の女主人か……) 帰ることのできない右近の少将は、焦るよりも北の方への興味が増して、右眉をピクリとあげました。 「大丈夫ですよ。もし北の方に見つかって咎められるようなことがあっても、私がきっとお守りしますから」
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加