第四章

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すっかり指先を冷たくした姫の手を、少将は優しく包み込みながら微笑みます。 落窪姫も何とかそれに応えようとしますが、長年苛め抜かれた記憶が、姫の顔をこわばらせてしまうのです。 (可哀想に。 この愛しい人に、こんな辛そうな顔をさせるなんて……。 よし。その意地悪女の顔を、しかと拝んでやろうじゃないか) 右近の少将は、姫の肩をしっかりと抱きました。 その頃阿漕は、落窪姫の部屋から出てきたことを悟られないために、わざと反対側のお部屋まで回って、北の方の所へ向かいました。 息を切らす阿漕にかかる程の鼻息を吐いて、北の方は顔をしかめます。 「長い旅路から帰ったばかりのこちらが、疲れ切って休むのなら分かるけど。 阿漕、お前はここ数日、ずっと休みのようなもんだったろう? なのに、出迎えも無しなんて、どういうつもりだい? どうせまた、あの落窪と仲良くやっていたんだろうさ。嗚呼!忌々しい。 お前なんか、落窪へ突き返してやろうかねえ」
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