第四章

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落窪姫はもちろん阿漕さえも、几帳の裏を見咎められては大変だと、口答えせず俯きます。 ただ、右近の少将だけはこの状況を楽しんでいて、几帳の垂れ絹の隙間から、北の方を覗き見致しました。 (まあ、若い頃はそれなりの顔立ちだったと見えるけど……。 今はどうだい。怒ってばかりだからかな。額や首に皺を寄せて。確かに噂通り、意地悪そうな顔をしている) 確かに北の方の器量はそれほど悪くありません。けれど、人の面には心が現れるものでございます。 少将の目には、北の方が醜く映っておりました。 舐めるように姫とお部屋を眺めていた北の方も、まさかこの数日の間に、落窪姫が結婚したとは考えが及ばなかったのでしょう。 コホンと咳払いを一つしてから、さっきよりもずっと優しい、鳥肌の立つような猫なで声で話始めたのです。 「実はね、私が今日この部屋に来たのは、旅先でとてもいい鏡を買ったのだけど。 お前の持っている鏡箱が、それにぴったりだと思うんだよ。 だからしばらく貸してもらえないかと思ってねえ」 そういって北の方は、薄気味の悪い笑顔を浮かべました。
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