第一章

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「阿漕、どうしたんだよ。どうして泣いているの。 ほら、俺に話してごらんよ。そんな風に悲しそうな顔を見ていると、俺まで悲しくなっちまう」 心配そうに自分の顔を覗く惟成に、阿漕は内心しめしめと思いましたが、袖で眦を拭いながら、上目がちに惟成を見つめました。 「私、姫様のことを考えると、悲しくって……」 「姫様って、お前の乳姉妹の落窪姫のことかい?」 「落窪だなんて、呼ばないで! 姫様はそんな風に綽名されるような方じゃないのよ? それはもう、本当に本当に……。ううっ」 阿漕はここぞとばかりに惟成の胸に顔をうずめました。 いつもは気丈な阿漕の様子に、惟成もまんざらではありません。 こんな風に自分にすがる阿漕の気鬱の原因を、どうにかして自分の手で取り除いてやりたいものだと、阿漕の肩に手を添えました。 「そんな風に泣いてばかりでは、どうしてやることも出来ないよ。いいから全部、俺に話してごらん?」
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