第四章

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落窪姫は、部屋の片隅に飾ってある鏡箱に視線を送り、小さくため息を吐きます。 それは、姫の亡き母が残してくれた、数少ない形見の品なのです。 ですが、断ることが出来るはずもありません。 姫は鏡箱を引き寄せ、愛しむようにそっと撫でてから、それを北の方に差し出しました。 「このような物でよろしければ、どうぞお持ちください」 姫のその言葉に、北の方はまるで口が裂けるかと思うくらいにんまりと笑い、鏡箱を姫の手からさっと掠め取ります。 「うふふ。お前のもったいぶらないところは、割と好きよ? ああ。やっぱりこの鏡にぴったりの箱だよ。いい買い物ができたわねぇ」 箱の中に入っていた姫の鏡を阿漕の手にぽんと放り、自分の買った鏡を入れて、北の方は満足そうにしております。 阿漕は奥歯をぎりぎり噛みしめながら、北の方を見上げました。 「北の方様っ。そちらに箱をお貸ししたら、姫様の鏡を入れるものが無くなってしまいますわっ!」 悔しさのあまり、思わずそんな言葉を口にしてしまうのです。
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