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落窪姫は、部屋の片隅に飾ってある鏡箱に視線を送り、小さくため息を吐きます。
それは、姫の亡き母が残してくれた、数少ない形見の品なのです。
ですが、断ることが出来るはずもありません。
姫は鏡箱を引き寄せ、愛しむようにそっと撫でてから、それを北の方に差し出しました。
「このような物でよろしければ、どうぞお持ちください」
姫のその言葉に、北の方はまるで口が裂けるかと思うくらいにんまりと笑い、鏡箱を姫の手からさっと掠め取ります。
「うふふ。お前のもったいぶらないところは、割と好きよ?
ああ。やっぱりこの鏡にぴったりの箱だよ。いい買い物ができたわねぇ」
箱の中に入っていた姫の鏡を阿漕の手にぽんと放り、自分の買った鏡を入れて、北の方は満足そうにしております。
阿漕は奥歯をぎりぎり噛みしめながら、北の方を見上げました。
「北の方様っ。そちらに箱をお貸ししたら、姫様の鏡を入れるものが無くなってしまいますわっ!」
悔しさのあまり、思わずそんな言葉を口にしてしまうのです。
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