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北の方は阿漕の方を見もせずに、
「後でちゃーんと、代わりの箱をとどけますよ」
そう言いながら、まるで自分の物のように鏡箱を撫でさすり、お部屋を出て行きました。
「姫様っ! 私、くやしくてたまりませんわ!」
北の方が遠ざかったのを見届けて、阿漕は悔しそうに申します。
「北の方様は、ああやって何度も姫様の持ち物を奪っていかれて……。
今ではどの品も自分の物のように扱っていらっしゃいますわ!
どれもこれも、姫様の御母君伝来の、由緒あるお品ですのに。
どうしてあのような事がお出来になるのでしょう」
「阿漕、そんな風に言ってはダメよ?
きっと北の方様も、御用が済んだら返して下さるわ」
顔を赤くして憤慨する阿漕を、落窪姫は窘めます。
落窪姫だって、母君の形見をとても大切に思っております。
けれど姫は、誰かを罵るようなことを、したくないのです。
几帳の影に隠れて聞いていた右近の少将も、姫のどこまでも清らかな心に胸を打たれました。
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