第四章

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北の方は阿漕の方を見もせずに、 「後でちゃーんと、代わりの箱をとどけますよ」 そう言いながら、まるで自分の物のように鏡箱を撫でさすり、お部屋を出て行きました。 「姫様っ! 私、くやしくてたまりませんわ!」 北の方が遠ざかったのを見届けて、阿漕は悔しそうに申します。 「北の方様は、ああやって何度も姫様の持ち物を奪っていかれて……。 今ではどの品も自分の物のように扱っていらっしゃいますわ! どれもこれも、姫様の御母君伝来の、由緒あるお品ですのに。 どうしてあのような事がお出来になるのでしょう」 「阿漕、そんな風に言ってはダメよ? きっと北の方様も、御用が済んだら返して下さるわ」 顔を赤くして憤慨する阿漕を、落窪姫は窘めます。 落窪姫だって、母君の形見をとても大切に思っております。 けれど姫は、誰かを罵るようなことを、したくないのです。 几帳の影に隠れて聞いていた右近の少将も、姫のどこまでも清らかな心に胸を打たれました。
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