第四章

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「やれやれ。やっと邪魔者がいなくなったね」 少将は几帳を押しのけて前に出ると、落窪姫を胸に抱き寄せました。 「私の大切な人にあんまりの言い様だったから、あと少しでしかりつけてやる所でしたよ?」 目の前で少将が姫の耳元で囁くのを聞いて、阿漕は恥ずかしくて目を逸らします。 「あの北の方はまだお若いようだけど、ずいぶん意地悪そうな顔をしているね。 あの人の姫君たちも、あんなお顔をしているのかい?」 「いいえ、少将様。姫君たちは、皆様とてもお美しいと聞いておりますわ。 少将様は、北の方様のご機嫌が悪い時に、たまたま居合わせてしまったのですわ」 落窪姫はすっかり右近の少将に気を許した様子で、後ろから抱きとめる腕に頭を寄せて答えます。 「本当に私の奥様は、お優しい方だ。 貴方は怒るということを知らないんですね。これからは私があなたの代わりに、色んな事を怒って差し上げなくては。なあ、阿漕」 阿漕は二人の仲の良さにあてられて、すっかり頬を染めています。 けれど、右近の少将がこのように落窪姫の境遇を目にして、さらに愛情が増したのなら、北の方の横暴も、案外役に立つのだと思いました。
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