第四章

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しばらくして、北の方の使いのあこ君という名の童が、代わりの箱を持って参りました。 「この箱は、蒔絵の柄は入っていないけど、漆塗りが枯れて大変風情のあるよいお品であると、北の方様からの御伝言です」 あこ君の差し出した箱は、黒塗りの漆が所どころ剥がれ、鏡を入れるには少し大きすぎます。 「古びたものを、風情があると言い換えるなんて、本当に悪知恵が働くお人なんですから。 それに……。姫様の鏡には大きすぎますし、品物の質が違いすぎますわ。 こんな箱なら使わない方が余程ましです」 阿漕はせせら笑います。 「そんな風に言わないで、阿漕。 『箱は確かに頂きました。大変良いお品で嬉しいです』と、北の方様にお伝えしてね」 落窪姫は阿漕を窘めると、あこ君に向き直ってそう言いました。 再び几帳の影に隠れていた右近の少将も、北の方から届けられた箱を見て、あきれたように笑います。 「こんなに古びたものを手元に置いておくなんて、北の方は余程物持ちがいいんだね」 少将のきいた軽口に、姫も阿漕も笑いました。
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