第四章

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其の弐 「惟成、これを中納言家の姫に届けておくれ」 右近の少将が、綺麗な薄様に書かれた文を、惟成に差し出します。 少将は昨夜、御所に参内していたため、落窪姫の元へ行けませんでした。その為、朝になるとすぐに文を書き、惟成に持たせたのです。 そのお文には。 『昨夜は御所に参内していたので、参れませんでした。 愛しい貴方に寂しい思いをさせたと思うと、胸が痛みます。 それに貴方の近くには、恐妻のお手本がいるからね。 いつ貴方が阿漕のように怒り出すんじゃないかと思うと、ハラハラしてしまいます。 出来れば、いつでも貴方にお会いしたいし、そちらのお邸は何かと気を使います。 どうでしょう? 私と一緒に、何処か気楽な場所を見つけて暮らしませんか?』 このように、姫への愛や、寂しさを紛らわすための冗談などが書かれていて。 最後には、一緒に住もうとまで書かれてあります。 その愛情たっぷりのお文を読んだ落窪姫は、口元に柔らかい笑みを浮かべながら、筆を取りました。
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