第四章

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『昨日はおいでが無かったので、もう私のことなどお忘れになってしまわれたのかと、不安でございました。 それに、阿漕はとても心の優しい子ですよ。 阿漕が申すには、心にやましい所のあるものは、女性のことを恐ろしく感じるものらしいですわ。 貴方様はそんなこと無いはずですから、阿漕や私を、怖がる必要は無いと、思いませんか? それと、私がこのお邸を出るのは、難しいことでございます。 出来ればいつも、貴方様のお側に居たいのですけれど』 落窪姫も、すっかり右近の少将に気持ちを許した様子で、少将の言葉一つ一つに応えるよう、返事を認めました。 すぐにお返事を頂けたことに、惟成も二人の絆の深さを感じます。 「もう、惟成さんったら。私のことを怖いだなんて、少将様と噂しているの? 困ったお人ねっ」 そのような阿漕の愚痴を笑顔でいなし、惟成は姫からの返事を懐に忍ばせました。 ところが落窪姫の部屋を出ると、惟成は下働きの童に呼び止められます。 「蔵人の少将様がお呼びでございますよ?」
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