第四章

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丁度、惟成の主人である、このお邸の三の君の夫。蔵人の少将もこちらで過ごしておりました。 惟成は御用はすぐに済むだろうと、落窪姫の返事を使いの童に渡さず、懐に忍ばせたまま蔵人の少将の所に向かいます。 「ああ、惟成。すまないが髪を整えてくれないか」 「はい、かしこまりました」 惟成は円座に座った蔵人の少将の後ろに回り、水や櫛箱などの道具を引き寄せました。 そして、蔵人の少将の後ろ髪を梳くために、少し身を前に倒した時、惟成の懐から、落窪姫の書いた文が滑り落ちてしまったのです。 惟成は熱心に髪を梳いているため、気づいておりません。 ですが、蔵人の少将は目の前に落ちてきた文を、すっと円座の下に隠してしまいました。 蔵人の少将は、それは惟成が恋人からもらった文だと勘違いしたのです。 そして、文を無くして慌てる惟成の姿を見てやろうと、ほくそ笑みました 「ご苦労だったな」 髪を結い終えた惟成にそう一声かけて、蔵人の少将は三の君のお部屋に向かいました。 もちろんその手には、落窪姫の返事が握られています。
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