第四章

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「ほら、見てごらんよ。 惟成が恋人からもらった文らしい。これを無くしたと知ったら、あいつはきっと慌てふためくんだろうな……。 どれどれ。 ふうん。これは素晴らしい手蹟だなぁ」 蔵人の少将が三の君に文を見せると、それに目を通した三の君は、はっと袖で口元を隠します。 「どうしたの?」 「それは、落窪の君のお手蹟ですわ」 「おちくぼ? ずいぶんおかしな名前だね。そんな姫がこの邸にいるのかい?聞いたことが無いなぁ」 いつも自分の衣装を仕立ててくれているのは、その落窪姫であるということを、蔵人の少将は知りません。 それは北の方が、このお邸に落窪姫が住んでいることを、秘密にしているからなのです。 三の君も、落窪姫のことは口外しないよう、北の方に言い含められておりました。 「姫と言うか……。そういう名の、針子がいるのですわ。とにかくこれは、私がお預かりしますわね」 落窪姫の文にしては、おかしな内容であったと思いながら、三の君は蔵人の少将の手から文をかすめ取りました。
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