第四章

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一方、髪結いの道具を片付けて腰を上げた惟成は、ふいに懐に手を差し入れてはっと致します。 (あれっ!? 文が……文が、無い!?!?) パタパタと自分の衣を叩いたり、蔵人の少将が座っていた円座の下を覗いたりしますが、落窪姫から預かった文が、何処にもありません。 念のため、自分の渡ってきた道筋を戻りますが、何処にも文らしきものは落ちておらず、近くの階段に腰を掛けて、惟成は頭をガシガシ掻きむしりました。 そこに三の君のお部屋から出てきた蔵人の少将が、にやにや笑いながら近づいて参ります。 「どうした?惟成。何か大切な物でも無くしたような顔をしているな」 そのにやけた顔を見た瞬間、惟成は事のすべてを悟りました。 「お願いでございますっ! あの文は大事な物なのです。どうか、どうか、お返しください!」 惟成は真っ青な顔に脂汗を滲ませて懇願しますが、事の重大さを知らない蔵人の少将は、扇で口元を隠してくつくつ笑うばかりです。 「私じゃなくて、三の君にお願いしてみなよ。 あの文は、もうあの人のお手元にあるのだから。 そんなに青くなっている所を見ると、妻以外からの文なのかな? お前も隅に置けないねえ」
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