第一章

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惟成のこの言葉に、阿漕はにんまり顔を袖で隠しながら、顔をあげました。 「あのね、その落窪と綽名される、私の仕える姫様は、本当はこのお邸のどの姫様よりも、貴いお血筋の姫様なのよ。 でも、こちらの北の方様がとても意地悪な方で……。 生さぬ仲のご関係だから、姫様を実の子と同じように可愛がれないのは、私だって分かるわ。 でも北の方様は、周りの者にも決して姫様とは呼ばせずに、まるで召し抱えの針子のように、毎日縫物ばかりさせているの」 惟成は阿漕の話を聞きながら、なるほどそうかと思いました。 それというのも、都の公達の間では、年ごろの姫君というのは、とかく噂になりやすいのです。 やれどこどこの姫は髪が美しいとか、どこどこの姫の手蹟はすばらしいとか。 そうしてその噂を頼りに、目当ての姫に文を送り、恋心を育てていくのです。 ですが、落窪姫の話は、阿漕の口以外からは、聞いたことがございません。 それはこのお邸の方々に、そのような扱いを受けていたせいなのか、と。惟成は納得いたしました。
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