第四章

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其の参 「おかしいと思ったんだよっ! ほんの数日邸を開けている間に、あの落窪の部屋に几帳が設えてあったり、妙に小綺麗な衣を身に着けていたり……」 北の方は、落窪姫の認めた文を右手でギュッと握りつぶしながら、歯ぎしりをしております。 蔵人の少将から受け取った文を、三の君は早速自分の母親に見せに行ったのです。 「しかし、相手は誰だろうねえ……。 まさか阿漕に通う内に、その惟成という男が、落窪を見初めてしまったんだろうか。 何にしても、忌々しい。 あの娘は、一生私のかわいい姫たちの為に、針子として働かせようと思っていたのに。 もし相手の男が本気になって、落窪を自分の邸に迎えたいなんて言い出したら、たまったもんじゃないよっ!」 考えるだけでも息が上がるのか、北の方は大きく肩を上下させながら、忌々しそうに息を吐きます。 「落窪の君に、釘を刺しておいた方がよろしいんじゃなくて?」 自分の婿君の衣装を仕立てる者がいなくなることは、三の君にとっても痛手でございます。 ですから三の君も、北の方と共に頭を悩ませておりました。
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