第四章

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「いいや。今はまだ、大げさに騒ぎ立てない方がいい気がするねぇ」 三の君の言葉に、北の方はにやりとしながら答えます。 「こちらが気づかぬふりをしていれば、相手の男もしばらくは、こそこそ通ってくるだろうよ。 けれど、こちらが騒ぎ立てれば、相手も思い切った行動に出るかもしれない。 もし盗人のように落窪を攫われたりしたら、打つ手がなくなるってもんだ。 だから、様子を見ながらどうするか考える方が得策だね」 人を思いやることには気が回らないのに、こういった悪知恵だけは人一倍働くのですから、憎らしい事この上ありません。 折しもその日の翌日、秋に行われる臨時の賀茂祭が催されることになっておりました。 北の方自慢の婿君・蔵人の少将は、その舞人に命じられておりましたので、その為の衣装の支度が山のようにあったのです。 「とりあえず、あの子には役に立てるだけ、立ってもらおうかねぇ。」 北の方はにやりと笑いながら、落窪姫の文を火鉢の中に放ったのでございます。
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