第四章

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落窪姫のお部屋では、阿漕が額を床に擦り付けるように頭を下げております。 惟成の失態を姫に説明して、とりあえずもう一度右近の少将への返事を書くよう促しますが、姫は打ち震えて筆を取るどころではありません。 あのお文が三の君に渡ってしまったということは、当然北の方の目にも触れるだろうと、落窪姫は恐ろしくて仕方ないのです。 いくら待っても姫からの返事が来ない右近の少将も、昨夜自分の訪れが無かったことを余程悲しんでいるのかと、暗くなってからすぐに中納言邸に忍んで参りました。 「お返事を頂けなくて、心配しましたよ? やはり、怒っているのかな?もしそうだとしても、貴方が拗ねているのは愛情の現れだろうから、私は嬉しく思いますよ?」 早速自分を胸に抱き寄せてそうささやく少将に、落窪姫は曖昧に答えました。 「北の方様がいらしてて、お返事を書くことが出来なかったのですわ」 少将に余計な心配を掛けたくない姫は、そのように嘯いて少将の胸に身を寄せました。 北の方に知られたと思うと恐ろしくて堪らないのですが、少将の腕の中はなんとも居心地がよく、姫はその日もその腕の中で甘やかな夢を見たのでございます。
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