第四章

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北の方は、落窪姫に通う男がいることを知ってしまいました。 けれど、それが右近の少将であることは、まだ明らかになっておりません。 それならば、毎日でなくても、年に数度でも。北の方の目を盗んで少将に会える方が、ずっといいと落窪姫は思いました。 そうして自分の衣をぎゅっと握る小さな手を、少将は堪らなく愛おしく思います。 「ええ、分かっていますよ。 ですから、私は今、貴方をお迎えする準備をしているのです。 それが整ったら、貴方を私の所へ迎えたい。どうですか? この家を捨てて、私について来てくれますか?」 自分の頬を包む少将の大きな手と優しいまなざしに、落窪姫はうるんだ瞳で答えます。 「ええ。少将様の御心に従いますわ」 そのいじらしい姿に、少将は日が昇り始めたばかりだというのに、落窪姫に深く口づけいたしました。 若い二人がそうやってお互いの愛を確かめ合っている所へ、北の方の使いの者がやって参ります。 側に控えていた阿漕が応対すると、使いの者は山のような裁断された絹を寄越して申しました。 「北の方様より、これを大至急仕立てるようにとのことでございます」
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