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一方、北の方は戻ってきた使いの者に落窪姫の様子を尋ねます。
「どうだい? さっさと縫い始めたかい?」
「いえ、まだお休みになられているようなので、控えていた女房にお伝えしておきました」
使いの者がそう申すと、北の方は眉間に深い皺を寄せて舌打ち致します。
「なんだい、その『お休みになられて』って口のきき方は!
敬語っていうのはね、私たちのような邸の主人に使う言葉なんだよ。
あんな卑しい娘に、敬語なんて使っているんじゃないよ、この馬鹿者っ!」
北の方はどこまでも落窪姫を貶めたいのです。
血筋だけで言えば自分よりもずっと高貴な流れの落窪姫を、出来るだけ下に見て、自分の自尊心を満たしたいのです。
見当外れな誹りを受けた使いの者は、すごすごと北の方の前を下がりました。
「それにしても昼寝だなんて、自分の立場を心得ていないと見えるね!」
まだまだ気持ちの収まらない北の方は、新たに裁断させた大量の絹を自ら持って、落窪姫のお部屋に向かいました。
「まったく、取り柄は縫物だけだっていうのに、何を呑気に寝ているんだか。あきれてものが言えないよっ!」
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