第四章

29/36
前へ
/378ページ
次へ
一方、北の方は戻ってきた使いの者に落窪姫の様子を尋ねます。 「どうだい? さっさと縫い始めたかい?」 「いえ、まだお休みになられているようなので、控えていた女房にお伝えしておきました」 使いの者がそう申すと、北の方は眉間に深い皺を寄せて舌打ち致します。 「なんだい、その『お休みになられて』って口のきき方は! 敬語っていうのはね、私たちのような邸の主人に使う言葉なんだよ。 あんな卑しい娘に、敬語なんて使っているんじゃないよ、この馬鹿者っ!」 北の方はどこまでも落窪姫を貶めたいのです。 血筋だけで言えば自分よりもずっと高貴な流れの落窪姫を、出来るだけ下に見て、自分の自尊心を満たしたいのです。 見当外れな誹りを受けた使いの者は、すごすごと北の方の前を下がりました。 「それにしても昼寝だなんて、自分の立場を心得ていないと見えるね!」 まだまだ気持ちの収まらない北の方は、新たに裁断させた大量の絹を自ら持って、落窪姫のお部屋に向かいました。 「まったく、取り柄は縫物だけだっていうのに、何を呑気に寝ているんだか。あきれてものが言えないよっ!」
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加