第四章

32/36
前へ
/378ページ
次へ
けれども落窪姫だけは、我を忘れたように絹を手に取り、折り目を付け始めます。 「ほら、貴方もそんなことはやめてこちらにおいで? 縫物なんかしなくていいよ。少しはあの継母を焦らせてやればいいんだ」 少将はそう言って、姫を夜具の方へ引き入れてしまいます。 これ以上北の方を怒らせたくないと思いながらも、落窪姫はその腕の心地よさに、つい身を任せてしまうのです。 (もう、本当に仲がよろしいんだから……。 見ているこっちが恥ずかしくなってしまうわ) 阿漕は袖で赤らむ頬を隠しながら、几帳から少し身を遠ざけたのでございます。 そうやって、落窪姫と右近の少将が仲睦まじく過ごしている内に、日が陰りはじめ。 阿漕が格子を下ろして灯台に火を灯した頃、北の方が落窪姫の様子を見に参りました。 縫物をさぼらずにやっているだろうか、と。お部屋を覗きこんでみると、裁断した絹はそのまま床に重ねられ、室内に姫の姿が見当たりません。 (あの娘!また几帳の内で寝ているんだね! あれだけ言ったのに、なんて子だろうっ) 北の方は大きく息を吸い込むと、邸中に聞こえるのではないかという大声で、怒鳴り始めたのです。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加