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「あなたっ。あーなーたーっ!!
ちょっと聞いて下さいな。この落窪には全く可愛げがありません。
こちらが頭を下げて縫物を頼んでいるというのに、何処から持ってきたかも分からない几帳の影に隠れて、寝てばっかりいるんですよ?」
もちろんその声は、共寝している若い二人の耳にも届きました。
(これは、あの意地悪女の声だ……。
それにしても、『おちくぼ』とは、おかしな名前だ。一体誰のことを言っているのだろう)
実は、右近の少将は、姫が『落窪』と綽名されていることを知りません。
阿漕は常々、この『落窪』という人を貶めるような綽名が嫌いで、夫の惟成にもその名を口にしないよう、よーく言い含めていたのです。
「落窪とは、どなたのことなの?
『へこんでいる』なんて意味の名前を持つなんて、余程おかしな人なのかい?」
そんな事情など知らない右近の少将は、軽々しくそのようなことを申してしまいます。
「さあ、私にはどなたのことだか……」
自分がどのように綽名されているか知られたくない姫は、消え入るような声で答えました。
けれど、怒り狂った北の方は気が収まらずに、とうとう姫の父である源中納言を、ここまで引き連れてきてしまったのです。
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