860人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほら、貴方からも落窪に言って下さいな。
こちらの大切な婿君の晴れの舞台を、台無しにする気なのかって!」
源中納言はもうかなりの年配でございます。
すっかり寝入っていた所をたたき起こされて、ただでさえ機嫌が悪いのに、気の強い北の方に責め立てられ、落窪姫の部屋の引き戸を開けるなり、不機嫌な声で申しました。
「これは一体どういうことなんだね、落窪の君。
実の母のいないお前を引き取って、こうやって立派に育ててくれた北の方に楯突くなんて……。
北の方が頭を下げて頼んでいるんだ。さっさと縫物を済ませてしまいなさい。
そうでないと、もうお前を実の子だとは思いませんからね」
忌々しそうにそう告げると、源中納言はさっさと自分のお部屋に戻って行きました。
北の方も口汚く落窪姫を罵りますが、姫はそんな言葉など耳に入りません。
(おかしな綽名をつけられていると、少将様に知られてしまったわ。
それに、実のお父様にさえ邪険にされていることも……。
これで少将様は、私には何の見込みも無いと思われるかもしれない)
恥ずかしくて情けなくて。どこかに消えてしまいたいと、姫は自分の肩を抱きしめます。
最初のコメントを投稿しよう!