第四章

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「ほら、貴方からも落窪に言って下さいな。 こちらの大切な婿君の晴れの舞台を、台無しにする気なのかって!」 源中納言はもうかなりの年配でございます。 すっかり寝入っていた所をたたき起こされて、ただでさえ機嫌が悪いのに、気の強い北の方に責め立てられ、落窪姫の部屋の引き戸を開けるなり、不機嫌な声で申しました。 「これは一体どういうことなんだね、落窪の君。 実の母のいないお前を引き取って、こうやって立派に育ててくれた北の方に楯突くなんて……。 北の方が頭を下げて頼んでいるんだ。さっさと縫物を済ませてしまいなさい。 そうでないと、もうお前を実の子だとは思いませんからね」 忌々しそうにそう告げると、源中納言はさっさと自分のお部屋に戻って行きました。 北の方も口汚く落窪姫を罵りますが、姫はそんな言葉など耳に入りません。 (おかしな綽名をつけられていると、少将様に知られてしまったわ。 それに、実のお父様にさえ邪険にされていることも……。 これで少将様は、私には何の見込みも無いと思われるかもしれない) 恥ずかしくて情けなくて。どこかに消えてしまいたいと、姫は自分の肩を抱きしめます。
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