第四章

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そうやって落窪姫が身を縮めていると、そのさらに上から、右近の少将が優しく強く、姫を抱きしめたのです。 「ごめんね、さっきは酷いことを言って。 貴方の呼び名だと知らなかったとはいえ、きっと傷つけてしまったね。 でも、名前なんてどうでもいいんですよ? 私は貴方を愛しているんだから」 姫の髪に顔を埋めながら、少将は優しく囁きます。 「でも、ご覧になられたでしょう? 私は実の父親にさえ、大切にされていないのです。 姫とは名ばかりで、この身一つしか持たない、何の頼りも無い女ですもの。 少将様に妻らしいことなど、何一つ、して差し上げられませんわ……」 「馬鹿なことは言わないで。 私が欲しいのはただ一つ。それは、貴方が一つだけ持っていると言った、貴方自身です。 もし貴方が、その辺の町娘でも、私はきっと恋をしたでしょう」 その優しい言葉に、落窪姫は体を捩じって少将の顔を見上げました。 そのうるんだ瞳を見て、少将は意地悪な笑顔を浮かべます。 「それに、実は私は、源中納言様よりずっとお金持ちですからね。この家の些細な援助なんて、必要ないんですよ」
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