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其の壱
縫物など忘れて二人が仲睦まじく過ごしている所へ、引き戸をほとほとと叩く音が聞こえました。
阿漕は三の君のお世話に行ってしまっているので、落窪姫はさっと几帳から出て澄ました顔で座り、「どなたですか?」と声を掛けます。
引き戸を開けたその場所には、涼やかな顔をした妙齢の女房が、縫物の道具を持って控えておりました。
「北の方様から、こちらの縫物を手伝うように、と。申し付かって参りました。
三の君様付きの、夏月(カヅキ)と申します」
女の声に右近の少将は興味を惹かれて、几帳の隙間から盗み見を致します。
そこには、落窪姫より少し年上と見える、美しい女房の姿がございます。
(蔵人の少将が、こちらの三の君の所には美しい侍女を揃えていると言ってたけど、どうやら本当みたいだな)
夏月は阿漕のような溌剌とした美しさではなく、しっとりと大人っぽい風情を持ち、すっきりとした美人という感じです。
「どちらを縫えばよろしいですか?」
そう問いかける声も、棘が無く、落ち着いた優しい声音でございました。
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