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「分かった、分かったよ」
もはや泣き真似も忘れて肩で息をする阿漕を、惟成はまあまあと、両手で制します。
「そんなに美しくて高貴なお姫様なのに、召使のように扱われているなんて、かわいそうだなあ。
せめて通う殿方の一人でもあれば、救われるのにね」
惟成がなんとなく口にしたその言葉に、阿漕は頬を緩ませました。
「そうっ。そうなのよ。
私もどなたか素敵な殿方が姫様を見初めて下さって、このお邸から盗み出してくれればいいのに……って、思わず願ってしまうの。
でも、私には伝手もないし、表だって動けば、きっとこのお邸の北の方様に見つかって、姫様はもっとひどい扱いを受けることになってしまうわ。
姫様はお美しいだけじゃなくて、心根の素晴らしい方だから、きっとどんな殿方のお心も魅了して差し上げることができるのに」
「うーん……。
そういうことなら、俺にアテがないわけでもないけど」
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