第五章

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「その交野様が、こちらの姫君達のご様子を尋ねられたので、私申し上げたんです。 北の方様の実の姫君よりも、もっと美しくて素晴らしいご気性の、年ごろの姫様がいらっしゃいます、って。 そういたしましたら、交野様は姫様に大変興味を惹かれたご様子でしたの」 夏月の言葉に、右近の少将も几帳の後ろで苦笑い致します。 やはり、『宮家の血筋の、美しい不遇の姫』という謳い文句は、都の公達の心を揺るがすものなのだと、そう思ったのでございます。 けれど、こちらの邸が落窪姫の存在をひた隠しにしていたおかげで、姫は噂に上らなかったのだと、少将は複雑な気持ちになりました。 続けて夏月の話を聞くと。 交野の少将は、、父母の揃っていない気の毒な姫を、数人妻に迎えているらしく。 自分を取り巻く結婚後の環境よりも、姫自身の人となりを考えて結婚をしてるようです。 夏月の気持ちは本当にうれしいと思いながらも、既に心に決めた相手のある落窪姫は、返答に困ってしまいます。 そこへ丁度、夏月を呼ぶ使いの者が参りました。 何やら急な来客のようで、夏月はお部屋を去る前にもう一度姫に微笑みます。 「また、北の方様の目を盗んでお話に参りますわ」
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