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そう言って夏月が自分の部屋に戻って行くと、右近の少将が几帳を押しのけて落窪姫の隣に座りました。
「あの、夏月という女房、なかなか美しい人だし貴方に優しい言葉をかけていたので、見所があると思って覗いていたのに……。
まさか貴方に縁談を持ち込むとは、少しびっくりしましたよ。
しかも、私を褒める時は当たり障り無い言葉を選んでいたのに、交野の少将を誉めそやす時は、うっとりと視線を漂わせたりして。
もしかしたら貴方も、私がここに控えていなければ、色よい返事をしたんじゃないですか?」
つんと唇を付き出して、少将は拗ねてしまったようです。
いつもは自信たっぷりの悠然とした少将のその態度に、落窪姫は目を丸くさせます。
「まあ、そんなこと仰って……。
夏月さんに罪はございませんわ。私、あの方の優しい言葉に、とても心が救われましたもの。
それに、少将様は、私にはご自分を信じるようにと仰られましたのに、ご自分は私を信じて下さらないおつもりですか?」
「私だって信じていますよ。でもね、交野の少将は、妙に魅力のある男なんです。
彼は恋に置いては、狙った的は外さないともっぱらの噂です。人妻や、帝の未亡人まで恋人にしているくらいだから、その噂もあながちウソでは無いんです」
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