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事実、血筋だけを見れば、落窪姫は女御として入内も可能でございます。
もし宮中に入れば、その美しさや気立ての良さから、一番の寵愛を受けてもおかしくありません。
けれども落窪姫は、そんなこと想像さえできません。
ですから、少将の機嫌が直ったことを見て、縫物の続きに手を伸ばしました。
そんな風に、自分の血筋の貴さを全く鼻にかけない落窪姫が、少将はなおさら愛おしくなり、早く自分の邸に迎えたいと、気持ちを新たに致します。
(そうだ。姫をこちらに迎えたら、器量と気立ての良い女房を揃えなければ……。
あの、夏月と言う女房は姫にとても優しく接してくれたから、候補に入れておくとするか)
今はまだ質素な衣装に身を包み、邸の隅のへこんだ部屋で裁縫に勤しむ落窪姫ですが。
綺麗な邸で上等な衣を纏い、たくさんの女房を仕えさせれば、誰の目で見ても、都一番と謳われる姫君におなりだろう……。
そう思うと、右近の少将はわくわくして仕方ありません。
「どれ、私がお手伝いしますから、さっさと縫物を終わらせて、二人でゆっくり致しましょうね?」
そう言って姫の白い手を取って、裁断された絹の両端を引きながら、若い二人はこの夜を、楽しく過ごしたのでございます。
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