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其の弐
いつまでたっても終わらない縫物も、二人で向き合えば楽しいとばかりに、落窪姫のお部屋には温かな空気が流れていました。
「ほら、もうこんなにたくさん仕立てあがりましたね。もしかして私には、針子の才能があるのかもしれない」
右近の少将は落窪姫に向かって、片目を瞑ってみせます。
それを受けて、姫の口から楽しそうな笑い声が漏れた頃、最も望ましくない人物が、落窪姫のお部屋を覗いておりました。
北の方にございます。
落窪姫が縫物をさぼっていたらこってり絞ってやろうと、いつもなら寝ている時間なのに、いそいそと起き出してきたのです。
ところがどうでしょう。
部屋を覗くと、渋々手伝いに寄越したはずの夏月の姿が無く、代わりに男の後姿が見えるのです。
北の方は眠気も吹き飛ぶ思いで、こっそりと開けた隙間に目を押し付けました。
男は、一目で上等だと分かる白い袿に、これまた美しい山吹色の掻練(カイネリ・打って柔らかくした絹)の重ねを身に着けております。
灯火に照らされた男の姿は見とれるほどに美しく、北の方は腰を抜かしてしまいそうでした。
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