第五章

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落窪姫をどうやっていたぶるか考えていると、北の方は口から涎が垂れるほど、楽しくて堪らないのです。 (まずは、落窪を、物置部屋に閉じ込めてしまおう。 あんな部屋に放っておいたから、男が通うようになってしまったんだ。 それから……。ふふふっ、いいことを思いついたよ。 落窪と典薬助(テンヤクノスケ・医者)を、くっつけてしまおうか。そうすればあの娘は、一生この家から出られないよっ) 典薬助とは、北の方の叔父で貧しい男にございます。 身寄りがなく独身で、この中納言邸に居候しているこの男は、齢六十を過ぎても女好きで、お邸の女房達に煙たがられておりました。 そんな典薬助に若く美しい落窪姫をあてがえば、喜んで飛びついてくることでしょう。 (あんな立派な公達と契合った後だ。きっと落窪は絶望するよ。 ああ、楽しみで仕方ないねえ) 先程までは再び眠ることが出来るはずもないほど、怒りに興奮していた北の方ですが、お部屋に戻るとすぐに寝付いて、盛大な鼾をかき始めました。 そんなたくらみなど知らない落窪姫と右近の少将は、仲睦まじく縫物をしながら、心の内を語り合っております。 そして空が白み始める前に、右近の少将は名残惜しそうに、中納言邸を後にしたのでございます。
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