第五章

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そこまで話して源中納言の顔を見ると、案の定目を見開いて、頬が引きつっておりました。 北の方はさらに調子を良くして話を続けます。 「先日、そのことで蔵人の少将から、嫌味を言われたんですの。 『こちらのお邸では、主人と家来を相婿(妻の姉妹の婿)として通わせておいでなんですね。 私はこちらの婿として、大事にされていると喜んでいたのですが、その事を知って、ひどく失望いたしました。 この事が知れたら、世間でどんな後ろ指を指されるかと思うと、恥ずかしくていたたまれませんよ』 ……なんて言われたものですから、ワタクシ、腹が立つやら恥ずかしいやら。もう、こうやって涙まで出てくる始末なんですの。うっうううっ!」 傍から見れば、何とも滑稽なお芝居ですが、北の方の言うように年老いた源中納言は、その話を鵜呑みにしてしまうのです。 「それはまことか!? この邸に住まう以上、私の実子であると、皆が知っているはず。 それを、貴族でもない帯刀風情に体を許すとは……。 相手が豊かな受領でもあれば、身分が下でも目を瞑っていられるものを」 実の娘の落窪姫のことであるのに、源中納言は怒りにまかせて膝をばしんと叩きました。 (ふふふ。思った通り、まんまと話に乗ってくれて。普段は年老いて魅力も果てたと思っていたけど、本当に扱いやすい、いい夫だよ)
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