第五章

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怒りで顔を紅くする源中納言に、北の方は追い打ちのように申しました。 「ええ、ええ。本当に残念なことですわ。 四の君の縁談がまとまれば、やっとあの子の身の上も考えてやれると思っていた矢先ですのに。 ですが、こうなっては仕方ありません。 もし、このまま放っておけば、惟成は落窪を邸から盗み出してでも、想いを遂げようとするでしょう。 そのような事になっては、この中納言邸の名折れにございます。 ここは一つ、落窪を物置にでも閉じ込めて見張りを付け、ほとぼりが冷めるまでやり過ごすほか、策はございません。 ワタクシにお任せ頂けますこと?」 「それがいい! すぐにでも北の物置に閉じ込めてしまいなさい!」 歳のせいか怒りのせいか。源中納言はそのような酷い事を、事もなげに言い放ちました。 その言葉に、それでは早速…と。北の方は衣の裾を軽やかに引き上げながら、落窪姫のお部屋に向かいました。 引き戸を叩きもせず掛け声も無しににざざっと開かれ、驚いて顔を上げた落窪姫の目に、恍惚とした表情の北の方が映ります。 「おやおや、今日は一人なのかい?  全く困ったことをしでかしたもんだねえ。 御父上もたいそうお怒りで、このお邸の面汚しだと、嘆いておいでだったよ? さあ、さっさと立つんだよ。今日からお前は、北の物置で暮らすんだからねえ!」
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