第五章

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其の参 源中納言は、眼前に座る落窪姫に目もくれず、北の方に冷たく言い放ちました。 「もう顔も見たくない。はやく物置に閉じ込めてしまいなさい」 北の方の話を鵜呑みにした源中納言は、自分の知らぬ間に、落窪姫が身分の低い相手と密かに通じていたことが、どうしても許せないのです。 親しい親子では無かったけれど、実の父である中納言にそのように言われて、落窪姫は弁解する気力もございません。 その中で、一人だけご機嫌の北の方は、まるで女人とは思えぬ乱暴な扱いで、落窪姫を北の物置に押し込めて、錠を強く差してしまいました。 「私の言うとおりにしないから、こんな目に遭うのさ」 北の方の捨て台詞をうわの空で聞きながら、落窪姫はその物置部屋をくるりと見渡しました。 狭い部屋に、酢、酒、干し魚などが置かれ、それぞれの臭いが混ざり合って、部屋中に立ち込めています。 入口の枢戸(クルルド・回転する扉)近くに、申し訳程度の薄縁(ウズベリ・ござ)が敷いてあり、他に腰を下ろせる様な所はございません。 その部屋のあまりに酷い有様は、落窪姫の涙も止まってしまう程でした。
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