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「落窪の君のせいで、本当に困ったことになりました。
阿漕、あなたは本当に、惟成と落窪の君のことを知らなかったの?」
賢い阿漕は、三の君のその言葉で全てを悟ります。
(なんてこと!それじゃあ、あのくそば……北の方様は、惟成と姫様が通じていると言って、中納言様を丸め込んだってこと?)
惟成が文を落としてから、すぐに怒鳴り込んでこなかった北の方を、阿漕も不気味に思っておりました。
けれどまさか、このような嘘をでっち上げて、落窪姫を閉じ込めてしまうなどとは、流石の阿漕も思い及ばなかったのです。
あの文は、三の君も蔵人の少将も目にしております。
多少強引であっても、このお邸で実権を握る北の方の言葉とあれば、異を唱える者などいないでしょう。
阿漕は咄嗟に袖で目を覆いました。
「ええ、三の君様。存じ上げませんでしたわ。
私だって夫に裏切られたのです。ああ、口惜しい。
その上、三の君様のお側を離れなければならないなんて……。
この先私、どうやって生きて行けばいいのでしょう」
元々阿漕を気に入っていた三の君は、「あらまあ……」と眉根を寄せて微笑みます。
「安心なさい。お前のことは、私からお母様に取り成しておきますから。けれど、ほとぼりが冷めるまで、しばらく自分の部屋で謹慎していなさい。いいですね?」
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