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阿漕の口から出た名前に、落窪姫は胸がぎゅっと締め付けられます。
さらに、阿漕から伝え聞いた言葉は、落窪姫の心にすっと染み込んで、冷えた体を温めてくれるようでした。
「嬉しいわ。少将様がそのように想って下さるなんて。
もうお会いできないと思うと、涙が溢れる想いでしたのに……」
そうやって涙する落窪姫の様子を、阿漕は自分の局に戻って右近の少将に伝えます。
すると少将は、泣き顔を見せまいと直衣を顔に押し当てて、肩を震わせました。
(こんな時になんだけど。少将様は本当に姫様を愛しておいでなんだわ)
阿漕は嬉しくも気の毒にも思い、再度右近の少将の様子を伝える為、北の物置に向かいます。
「そのような誠実なお人だったのに、どうして私、あの方につれない態度を取ってしまったのかしら。
きっとそんな私だから――」
落窪姫の声を聞くため澄ましていた阿漕の耳に、「誰かそこに居るのか?」という、北の方の声が聞こえて参りました。
どうやら物音を聞きつけて、起き出してしまったようです。
「姫様、北の方様のお声が聞こえますわ。また隙を見て参ります。お心をしっかり持ってくださいましね」
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