第五章

29/33
前へ
/378ページ
次へ
其の四 夜が明けても、北の方や源中納言の怒りが解けることも無く、落窪姫は食事も無しに、物置部屋に閉じ込められたままでございました。 阿漕は強飯(コワイイ・蒸したお米)を紙に包んで隠し持ち、落窪姫に渡そうと思うのですが、錠の差してある扉を開けることが叶わず、途方に暮れております。 (どうにか物置部屋の戸を開ける手立ては無いものかしら……) このお邸の家人は皆、北の方を恐れておりますので、姫に同情する者でも、おそらく手を貸してはくれないでしょう。 そんな阿漕の頭に、ある人物の姿が浮かびます。 (そうだわっ。三郎君ならもしかして……) 三郎君は、まだ十に満たないこのお邸の三男坊でございます。 北の方の末の子で、やんちゃで可愛らしく。源中納言も、この孫のような息子を大変可愛がっております。 その三郎君は、ここ数年琴に興味を持ち始めたのですが、この中納言邸に、琴を上手に弾きこなせるのは、落窪姫以外おりませんでした。 その為、三郎君は落窪姫を指南役に、琴の練習に励んでいるのです。 いくら北の方が落窪姫を貶めようとしても、まだ子供で素直な三郎君は、美しく優しい姉君を、その心のままに慕っているのでした。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加