第五章

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北の方が中納言に小言を言っている隙に、三郎君は物置にさっと入り込みます。 そして身をかがめて沓を探す振りをして、懐に忍ばせていたものを、落窪姫の衣の下に差し入れました。 突然開いた扉と三郎君に驚いていた姫の目に、にっこり笑って片目を瞑る三郎君が映ります。 「あれー?おかしいな。ここに隠したつもりだったのになあ。 僕の勘違いだったみたいっ」 無事お役目を果たした三郎君は、そんなことを言いながら、物置を走り去りました。 「まったく、後できつーく叱ってやるからね!」 物置の戸は北の方の手で再び固く閉じられましたが、隙間から差し込む光を頼りに、落窪姫は衣の下に入れられた包みを開きます。 そこには固めた強飯が包まれており、その紙の一枚に、阿漕からの文がございました。 物置に立ち込める様々な臭いに、強飯を食べる気にはなれない落窪姫ですが、阿漕からの慰めの言葉を読んで、少しだけ勇気づけられます。 一方、北の方は早くも次の一手を打つために、叔父の典薬助の部屋を訪れておりました。 閉じ込めっぱなしでは、姫を針子として役立てることも難しいので、早く典薬助と落窪姫を夫婦にしてしまおうと考えたのです。 そんなことは知らない阿漕は、三郎君の活躍に感謝しながら、姫を救いだす方法に、頭を巡らせていたのでございます。
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