第六章

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其の壱 白い髪に緩んだ皮膚。目尻には黄色いやにを付けた典薬助は、締りの悪い口をにんまりと引き上げて、北の方の話に耳を傾けております。 「……そういうわけで、落窪を北の物置部屋に閉じ込めてあります。 今夜にでも忍んで行って、落窪と契ってくださいな」 「ほ、ほ、ほ。それは結構。 お任せ下さい。ぜひ姫君を幸せにして差し上げましょう」 幸せにしたくないからお前をあてがうんだよと、心の中で毒づいて、北の方はにっこりと笑いました。 裏でこんな計画が進んでいるとなど知らない阿漕の元に、右近の少将と惟成から文が届きます。 少将は落窪姫を心配する言葉を縷々と綴り、惟成は手紙を落とした自分の失敗を、何度も悔いてあやまっておりました。 何とか隙を見て、少将の手紙を落窪姫に渡そうと、阿漕は何度も物置部屋の様子を見に行きます。 日が落ちて阿漕があきらめかけた頃、やっと北の方がその戸を開きにやって参りました。 暗い物置部屋に灯をともし、北の方は落窪姫の足元に、絹と立派な横笛をポンと放ります。 「その笛の袋を、すぐに縫い上げなさい」 それは蔵人の少将の横笛で、袋を縫うよう頼まれた北の方は、仕方なく落窪姫の元にやって来たのです。
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