第六章

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「申し訳ございません……。気分が悪くてすぐには無理そうですわ」 ずっと暗い物置で、立ち込める酢や食べ物の臭いに吐き気の上がる落窪姫は、そう言って頭を下げますが、北の方はそんな姫の様子などお構いなしに言いました。 「何を言ってるんだい!私の命令が聞けないのなら、今度は男どもがたくさんいる、下働きの者の部屋に押し込めてやるよ!」 普通の人ならあり得ない仕打ちも、北の方なら喜んでやりそうだと、落窪姫は渋々布を拾い上げます。 その様子を覗き見ていた阿漕は、再び三郎君に頼みごとを致しました。 「三郎君様。物置の戸が開いている内に、なんとかうまく、このお手紙を落窪の君様にお渡しして下さらないかしら」 「うん。分かった、やってみるね!」 阿漕から文を受け取ると、三郎君は物置に駆けていくと、北の方が止める隙もないほど素早く、お部屋に入り込みます。 「わあ、素敵なお笛だねえ。僕も今度、笛を習おうかしら」 三郎君は笛を手に取る振りをして、落窪姫の手に文を握らせたのです。 「こら!お前はまたこんな所に入り込んで!それは大事な笛なんですよ。こっちに返しなさい!」
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