第六章

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「そりゃあ、もちろん。落窪の君の事ですわい。 この度めでたく、わしが賜ることになりましてのう。 あの姫さんは、阿漕ちゃんの大切な主人じゃろう?その大切な姫さんの婿になるのじゃから、わしも阿漕ちゃんの、大切な主人になるというわけじゃ」 美しい姫を手に入れる上、阿漕のような器量の良い女房を側に置けると想像して、典薬助はこれ以上ないほど、口の端を吊り上げて笑っております。 (賜る……って。う、うそでしょ! あのくそば……北の方様は、姫様とこの助平爺を結婚させるおつもりなの?) あまりのことに、阿漕は涙と吐き気が上がってきますが、必死に平静を装いました。 「ま、まあっ。それはおめでたい事ですわ。 姫様にはどなたか頼りになる男君がいらっしゃれば、と。阿漕も常々思っておりましたの。 それでその、ご婚儀の日取りなどは……」 「ぐふふ。それはもう、今すぐにでもということなんで、今宵姫さんの所に、愛を交わしに行って参りますぞ」 何が愛よ!と、阿漕は拳を振り上げそうになりましたが、必死にこらえて残念そうに眉を下げるのです。 「おめでたい事ですので、阿漕も今すぐにでもお祝い申し上げたい所ですが、あいにく今日は、姫様の忌日(月の障り)でございます。 日を改めて頂かないといけませんわね」
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