第六章

9/50
前へ
/378ページ
次へ
阿漕から聞いた話に、落窪姫は恐ろしさで胸が苦しくなりました。 (今までにも辛い事ならいっぱいあったけど、今度のことに比べれば、ものの数にも入らないほどだわ……。 いっそのこと、本当に死んでしまいたい) 今から起きることを考えると、落窪姫は胸が強く痛み、とうとうその場に伏せて泣き出してしまいます。 北の方が扉の錠を外して中を垣間見ると、そうして苦しむ落窪姫の姿が目に入りました。 「おやおや、何をそんなに泣いているの」 「少し、胸が痛むのですわ……」 落窪姫は声を出すことも辛く、出てきたのはか細く鳴く虫の様です。 その様子を見て、北の方はにんまりといやらしい笑顔を浮かべます。 「あらあら、それは可哀想にねえ。そうだ、医者の典薬助を呼びましょう。 あの者に、その苦しい胸を見てもらったらいいんじゃないかい?」 その言葉に、普段は怒りなどめったに抱かない落窪姫も、北の方を例えようもなく憎らしく思います。 「いいえ、きっとただの風邪でございますわ。お医者様に見て頂く必要など、ございませんわ」 「胸の病を甘く見ない方がいいよ。ほら、噂をすれば、あれは典薬助じゃないか」
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加