第六章

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落窪姫の抵抗もむなしく、とうとう典薬助がやってきてしまいました。 北の方は、これ以上ない程嬉しそうな声で典薬助に声を掛けます。 「丁度良い所に来られました。こちらの娘が、胸を病んで苦しんでいるのです。 きっと何かの罪の報いでしょうが、放っておくことも出来ません。 こちらに来て、娘の胸を見てあげてください」 空々しくそう告げると、北の方は典薬助の肩をポンと叩いて、その場を去って行きました。 物置の中を見ると、灯台の小さな明かりに照らされた、美しい姫が肩を震わせて泣いております。 (これはこれは、大した上玉だ。ほほほ。この翁が存分に可愛がって差し上げますぞ) 手を揉みながら近づいてくる典薬助は、落窪姫が見たどの人間よりも、気味の悪い笑顔を浮かべております。 「わしは医者ですので、お姫さんの病気などすぐに治して差し上げますぞ。 今日からは、このわしを頼りに思って下さるとええ」 逃げ場のない落窪姫に、皺が寄りシミの浮き出た細い手が伸びてきて、姫の胸元をまさぐり始めました。 落窪姫はあまりの気味の悪さに、とうとう泣き叫んでしまいます。 けれど、このお邸に助けに来てくれる者など無く、落窪姫は必死に堪えながら典薬助に懇願致しました。
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