860人が本棚に入れています
本棚に追加
「なるほどなるほど。老い先の短い翁ですが、これからの人生、お姫さんが一心にわしに仕えてくれると言うのなら、わしもその気持ちに報いましょうぞ。
お姫さんの為なら、こーんなに大きな岩山でも動かせると思っておりますのじゃ。
温石くらい、訳はありません。わしの『おもひ(想い)』の『ひ(火)』を使って、石を焼いて差し上げまするぞ」
「どんな火でも構いませんから、早くしてくださいっ!」
悦に入って長々としゃべる典薬助に、思わず阿漕は本音を漏らしてしまいますが、機嫌を良くした典薬助は、気づかずに温石を求めて去って行きました。
(誰がお前なんかの為に温石を用意してくれるものですかっ。
一晩中探し回っているといいんだわ)
阿漕は典薬助の背中に舌を出すと、急いで落窪姫の手を取ります。
「姫様、ご無事でいらっしゃいますか?
このお邸に来てから、辛い事なら数えきれないほどございましたけど……。
その全てがかすんで消えるほどでございます。
北の方様は、後世にどのような報いを受けるかなども、まるでお考えではいらっしゃらないのですね」
「今度ばかりは、とても耐えることが出来そうにないわ。
お願い、阿漕。その戸を閉めて、典薬助殿が入ってこられないようにしてくれない?
もう二度とあの方に触られたくないの」
最初のコメントを投稿しよう!