第六章

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「なるほどなるほど。老い先の短い翁ですが、これからの人生、お姫さんが一心にわしに仕えてくれると言うのなら、わしもその気持ちに報いましょうぞ。 お姫さんの為なら、こーんなに大きな岩山でも動かせると思っておりますのじゃ。 温石くらい、訳はありません。わしの『おもひ(想い)』の『ひ(火)』を使って、石を焼いて差し上げまするぞ」 「どんな火でも構いませんから、早くしてくださいっ!」 悦に入って長々としゃべる典薬助に、思わず阿漕は本音を漏らしてしまいますが、機嫌を良くした典薬助は、気づかずに温石を求めて去って行きました。 (誰がお前なんかの為に温石を用意してくれるものですかっ。 一晩中探し回っているといいんだわ) 阿漕は典薬助の背中に舌を出すと、急いで落窪姫の手を取ります。 「姫様、ご無事でいらっしゃいますか? このお邸に来てから、辛い事なら数えきれないほどございましたけど……。 その全てがかすんで消えるほどでございます。 北の方様は、後世にどのような報いを受けるかなども、まるでお考えではいらっしゃらないのですね」 「今度ばかりは、とても耐えることが出来そうにないわ。 お願い、阿漕。その戸を閉めて、典薬助殿が入ってこられないようにしてくれない? もう二度とあの方に触られたくないの」
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