第六章

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落窪姫ははらはらと涙を流し、阿漕に懇願致します。 けれど阿漕は、首を横に振るのです。 「姫様、お気持ちは分かりますけれど、それは得策とは言えませんわ。 とりあえず今は、あの爺さんの機嫌を取っておくのがいいのです」 阿漕だって、大切な姫がこのような目に遭うことは、とても許せることではありません。 けれど、典薬助を怒らせてそれが北の方の耳に入れば、さらに状況を悪くしてしまいます。 「すぐにでも助けに来て下さる人がいれば、誰が怒ろうと関係ありませんわ。けれど姫様、そんなこと無理なのです。 右近の少将様だって、お気持ちはそのつもりでも、何ができるというわけでもありません。 今は神仏に祈りながら、私たち二人でこの場をやり過ごすしかないのです。 そして機会を待つのですわ」 阿漕が落窪姫の手を両手で包み込むと、姫も覚悟を決めてゆっくりと頷きました。 (阿漕の言うとおりだわ。ここで挫けてしまったら、きっと二度と右近の少将様にお会いできない……。 そうね、耐えるしかないわね。そして少将様を信じて、私待ちますわ) 自分の手を握り返す落窪姫の力が強まるのを感じて、阿漕も内心ほっと致します。 そこへどうやって温石を都合したのか、しばらく戻ってこないと思っていた典薬助が、現れてしまいました。
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