第六章

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落窪姫もぞっと致しましたが、何とかこらえて大人しく典薬助に体を預けました。 すると、歳のせいなのか、典薬助はすぐに鼾をかき始め、ほっとした姫の目からは、涙がぽろぽろ流れ落ちます。 (この爺さんは本当に憎たらしいけど、こうして姫様の側に居られるのだから、今日は勘弁してやるわ) 阿漕は苦々しく思いながらも、久しぶりに落窪姫と直接まみえることが出来て、少し嬉しい気持ちもございました。 それに、何とか今夜を乗り切ることが出来て、心底安堵したのです。 長い長い夜が明け、阿漕は典薬助をたたき起こして釘を刺します。 「もう明るくなったので、ご自分のお部屋に戻られてください。 けれど、昨夜のことは人に申しあげない方が良いでしょう。姫様との今後が大事なら、姫様のお気持ちを尊重してくださいませ。いいですね?」 何も無かったとはいえ、気持ちだけは既に婿君の典薬助は、確かにその通りであろうと首を縦に振りました。 そうして、一晩中姫を寄りかからせていたせいで凝り固まった老体を、気だるそうに持ち上げて、ぎくしゃくとした動きで物置を後にしたのでございます。
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